昔はクーラーなど無かったから、蒸し暑い夏の夜は、戸を開けたまま蚊帳で寝た。蚊帳を吊ってもらうとただもうそれだけで嬉しくなって、おおはしゃぎしたものだ。家の裏には農業用水路があって、季節になるとあたり一面に蛍が舞った。父がある夜、幼い私を連れだして蛍を捕ってくれたことがある。そして、ガラス瓶に入れた蛍をそのまま蚊帳の中に放してくれた。暗い部屋に光る蛍。断片的な、そして夢のような記憶である。