近所を流れる福島川。私はこの川で、水中鉄砲で川エビを突き、投網で鮎を獲って育った。父は投網が好きで、とくに月のない晩などには私もよく連れて行かれた。カーバイトランタンと魚籠を腰に下げ、川下から川上へとさかのぼりながら網を打つのだが、こちらは毎日のように川の中を歩いているから、どこが瀬でどこが淵なのか川底の様子は手にとるように分かる。しかも闇夜である。敏捷な鮎もさすがに不意をつかれるというわけだ。大漁の晩に凱旋将軍のように鼻高々で帰ると、母が大げさに驚いてくれたっけ。
お隣で床屋を営む浩オジチャン(故人)は転がし釣りの名人だった。床屋が休みの月曜日になると、決まって川辺の指定席に腰を下ろして釣竿を操っている。釣り上げる鮎にそのまま塩をまぶし、ドラム缶の火で炙りながら、浩オジチャンは悠然と焼酎を飲むのである。大人って楽しそうだなあ…と子供心に思ったものだ。あのときの若鮎の苦味、川面をわたる初夏の風の心地よさ。私のふるさとの原風景である。