部長の日課

土木建設会社に勤務する窪谷部長(仮名)の元日の恒例行事。それは工事現場すべてを廻り、地霊に御神酒を捧げ安全を祈願すること。元日なのに丸一日かけて、しかも会社の指示でもないのに毎年欠かさず続けている。「現場あればこその土木」が信条なのだ。
災害が発生すると、応急作業にいち早く駆けつけてくれるのは地元の業者さんである。十年以上も前のことだが、台風が吹きすさぶ中、雨合羽にヘルメットをかぶって部長に同行したことがあった。部長はコンビニに飛び込むなりパンや牛乳、お茶におにぎりを山ほど買いこんで災害現場を飛び回る。ダンプの運転席の窓をコンコンと叩いて「ご苦労さん!」と差入れしながら様子を見て回るのだ。真っ黒い空がゴーゴーと唸り声をあげる中での光景に、私は胸が熱くなった。
いま部長は言う。「こんな素晴らしい仕事はない。土木はよく“3K”なんて言われるがそれはウソだ。本当は感謝・感動・感激でいっぱいなんだ。心配なのは、若い連中にこの素晴らしさを伝えられてないことだ…」と残念そうに。でも、そんな部長の生き様こそが美しい。いつもそう思う。
ところで、部長が毎日欠かさない日課がある。それは独り暮らしのお母さんを訪ねること。どんなに忙しい日でも優しい奥さんと連れ立って実家に足を運ぶ。「(亡き父ちゃんと)母ちゃんがオレを育ててくれたから」としみじみ語る部長の姿に、私はいつもハッとさせられる。