忘れえぬ風光

ある年の七月、参院選の応援で山形に出かけた。飛行機が庄内空港めざして徐々に降下し、雲層を突っ切った瞬間、目の前に突如として、鮮やかな緑一色の庄内平野が姿を見せた。ふかふかのカーペットを敷き詰めたような眩しいばかりの青田。農家が田んぼに遠慮して身を縮めるように点在している。旋回する機窓からみえる月山、鳥海山そして金色に輝く日本海、最上川、と続くパノラマの眺望。美しい。まさに息を呑むほどに美しい。生まれて初めて出逢う米どころの壮観にわたしは驚くほどに感動し、そして何故かしら原風景のような懐かしさを覚えた。
わたしは藤沢周平(山形鶴岡出身)の作品が好きだ。藤沢の描く、日本人の奥床しさや気高さ、潔さが好きなのだ。そして藤沢の物語の美しさは、あの庄内の美しさ故に生まれたものなのだと、私は密かにひとり合点している。