和尚と酒

月に一度必ず、東京・谷中の名刹、全生庵で座禅を組んでいる。心に溜まった垢や埃を洗い落とすためだ。学生時代に近くに住んでいたこともあり全生庵を存じ上げてはいたが、こうしたご縁を頂くようになったのは七年前、大先輩である山本有二先生(衆議院議員)にご紹介頂いてからだ。平井正修和尚の全身から発せられる気に圧倒され、以来、頻繁にお会いしてはご指導を頂くようになった。「心にある余分なものを削ぎ落とすために座るのですよ」と教えられるものの、未熟な私には相も変わらず悪戦苦闘、七転八倒の日々が続く。
和尚とはよくお酒もご一緒させて頂く。特に何を語り合うわけではないが和尚と差向いで酒を汲んでいると只もうそれだけで良い。酒は旨く、心は清々しく日本晴れである。
 私は毎年九月、西郷南洲翁の命日にお墓参り(鹿児島市)を心がけている。一方、全生庵を開いた山岡鉄舟居士が西郷と親交があったご縁から、平井和尚もまた毎年鹿児島に招かれている。それならば鹿児島でも一献…と言って始まった酒席も今では恒例となった。霧島の鄙びた温泉宿で、窓を開け放ち、天降川の流れを聴きながら酒を酌み交わすのだ。やがて余分なものが洗い流され、“よし、自分を生きよう!”と肚に力が入る。